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『はじまりへの旅』/普通ってなんだろう?おかしな家族が教えてくれるたいせつなこと。【ネタバレあり】

新宿ピカデリーにて鑑賞しました。

本日は映画の日…というわけで『はじまりへの旅』を観てきました。サービス料金で観られる&土曜日といこともあって、いつもより人が多かった!

新宿ピカデリーは割引キャンペーンが充実しているのでメインで通っています。どうせ見るなら映画はできるだけ割引価格で観たいですよね。

さて、この『はじまりへの旅』

ものすごーく大好きな作品になりました。

ニコニコ笑顔で映画館を後にしました。

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『はじまりへの旅』

『はじまりへの旅』の監督・出演者・製作年

監督:マット・ロス

出演:ヴィゴ・モーテンセン/フランク・ランジェラ/ジョージ・マッケイ

製作:2016年/アメリカ

ヴィゴ・モーテンセンは『ロード・オブ・ザ・リング』のアラゴルンや『ザ・ロード』の父親『イースタン・プロミス』のムキムキの全身タトゥーの男などが強く印象に残っています。

出演作を調べていて『カリートの道』や『クリムゾン・タイド』にも出演してるらしいことに気づきました…。出てましたっけ?まったく記憶にありません…。チョイ役かなぁ。

たまにロバート・カーライルと混同するのですが、いかつくてあごがしっかり割れている方がヴィゴ、という覚え方をしています。

『はじまりへの旅』のあらすじ

ビゴ・モーテンセンが大家族の父親役を演じ、森で暮らす風変わりな一家が旅に出たことから巻き起こる騒動を描いたロードムービー。現代社会から切り離されたアメリカ北西部の森で、独自の教育方針に基づいて6人の子どもを育てる父親ベン・キャッシュ。厳格な父の指導のおかげで子どもたちは皆アスリート並みの体力を持ち、6カ国語を操ることができた。さらに18歳の長男は、受験した名門大学すべてに合格する。ところがある日、入院中の母レスリーが亡くなってしまう。一家は葬儀に出席するため、そして母のある願いをかなえるため、2400キロ離れたニューメキシコを目指して旅に出る。世間知らずな子どもたちは、生まれて初めて経験する現代社会とのギャップに戸惑いながらも、自分らしさを失わずに生きようとするが……。監督は「アメリカン・サイコ」などの俳優で、「あるふたりの情事、28の部屋」で監督としても高く評価されたマット・ロス。第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門の監督賞をはじめ、世界各地で数々の映画賞を受賞した。引用:はじまりへの旅 : 作品情報 – 映画.com

『はじまりへの旅』の感想(ネタバレあり)

ファーストショット、一面の緑の森が映し出された瞬間から映画の世界に引き込まれてしまった。みずみずしい緑が本当に美しいんです!!

森の中に身を潜め気配を消して、獲物を狙う”何者か”がいる。

その”何者か”は茂みから飛び出したかと思えば、あっという間に大きな鹿を一撃で仕留めてしまう。

彼の名前はボウ。森にすむヘンテコ一家のキャッシュ家の長男。

実はこの狩りはボウへのテスト。

見事に合格したボウは少年から大人の男へと認められるのです。合格の証かな?獲物の血を父親ベンによって額に塗られ、生の肝(心臓?)を貪り食う。

なんてワイルドな…。

ちょっとちょっと、今は21世紀ですよ?(笑)

いつものごとく「森にすむ変わった一家が登場するお話」という以外はほとんど前情報は入れず、鑑賞したのだが…。一家のワイルドぶりには度肝を抜かれた(笑)

冒頭の鹿狩りのシーンは少々残酷ではあるものの、本来生きるというのは他の命をいただくこと。まるで祈るように鹿を解体する少女たちの姿は美しいとさえ感じた。

日頃、私たちがほとんど忘れていること。

人間も本来は自然の一部であるということ。

キャッシュ一家はそれを思い出させてくれる。

森に暮らす一家

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森の奥にある小さな家でキャッシュ家は暮らす。

  • 父親のベン
  • 長男ボウ(秀才、女性を前にすると硬直する)
  • 次男レリアン(反抗期。なかなかの美少年)
  • 双子のキーラとヴェスパー(エスペラント語が話せる)
  • 三女のサージ(ポルポト派?)
  • 末っ子三男のナイ(裸族)
  • 母親のレスリー(入院中)

豪邸ではないけれど手入れの行き届いた家の様子から、一家が毎日を大事に暮らしていることが伝わってくる。幼い子供たちもそれぞれが家族の一員として役割を担い、洗濯をし植物に水をやり食事を作る。

夜はたき火を囲んで、もくもくと本を読む。しかもトルストイや宇宙物理学、歴史書、哲学書。大人が読むのも骨が折れそうな本を子供たちが夢中で読んでいるのだ。

そして皆で楽器を演奏し、歌を歌う。

たき火に照らされてオレンジ色に染まった楽しそうな一家。

毎日がキャンプのような暮らし!

ここまで観ただけで、このヘンテコな一家にすっかり魅了されてしまった。

しかしその生活は楽しいばかりではないのです。

子供たちには父ベンによる厳しい訓練が施されておりました。

▼子供たちはベンのスパルタ教育で徹底的に鍛え上げられている。

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幼い子どもであっても一切の容赦はしない。

ランニング、筋トレ、格闘技(しかも急所を狙えとしっかり教えてる!)、そしてロック・クライミング。ほぼ直角に切り立った岩の壁を子供たちがよじ登っていく。ミスをして怪我をしてもすぐには手を貸さず、まずは自力でなんとかさせる。

むき出しでありのままの「生きる力」を子供たちに身に付けさせていく。

いやいや、そこまでやるの?!と驚くほどにスパルタで 再び度肝を抜かれた。(この後、何度も度肝を抜かれることになります(笑))冷たい雨に震える様子を見たときはさすがに心が痛んだ。

ベンのスパルタ訓練のおかげで筋力と心肺機能は一流のアスリート並みなのです。

 

▼全員でロック・クライミング(私は絶対にムリ!)

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自分のことは自分で。自分の頭で考えて、自分の言葉で話す。隠し事はしない。

ベンが森にやってくる前に何をしていた人物なのかは謎。しかしおそらく相当有能な人物だったのだろうと思われる。子供たちの読んでいる難解な本の内容を、ベンはすっかり理解し頭に入っているようだった。

そのベンがたびたび子供たちに言っていたこと。

自分の言葉できちんと説明しなさい。」

「興味深い」などとあいまいな言葉は使ってはならないのだ。

ぐさっ…私の心にも刺さってしまいましたよ…。便利なのでつい多用してしまいます。「興味深い。」もしくは「印象深い。」という言葉。

語っているようで何も語っていない曖昧な言葉を使うのではなく、何をどう感じ、どう考えるのか?自分自身の中に答えを見つけだし、自分の中にある言葉でどうそれを表現するか?ベンは子供たちに自分の頭で考えて語る能力を身に付けさせようとする。

そして隠し事はしない。

質問されたことは包み隠さずしっかり答える。言いづらいこと見せたくないことであっても嘘はつかない。それがベンの教育方針なのだ。

ベンの教育方針には偏りがあるとはいえ、それでもつい忘れそうになってしまうことを思いださせてくれる。

便利なものに頼りすぎるといざという時に自分自身を頼れなくなる。

大事に守って危険から遠ざけているうちに、危険を察知する能力そのものが失われてしまう。

スーパーで売られている「死んだ鶏」はかつては生きていたもの。私たちは私たち自身が生きるために奪った命のことを考えることがあるだろうか?私はあまりない。

文明社会から距離を置き、自然と共生する彼らは私などよりもずーっとたくましい。

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森の外へ

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双極性障害を患い、入院療養中であった一家の母親レスリーが自殺し、その葬儀へ向かうために一家は森の外へ出る。

ミッションは「ママを救うこと。」

仏教徒であり火葬を望まなかったレスリーを奪還し、彼女の遺言通りに葬ること。

ワシントン州カスケード山脈からニューメキシコまで2400キロのキャッシュ一家の長い旅が始まる。

森の外は未知の世界。

新しく広がった世界に、子供たちは目を輝かせ、突拍子もない(と思える)言動や行動を取っては驚かせ、笑わせてくれる。(食べ物を救え!はいくらなんでもやりすぎかと^^;)

▼初対面のいとこたちとのディナー。驚きの連続!

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キャッシュ家の子どもたちの「普通」は森の外では「普通」ではない。

では「普通」ってなんだろう?この映画のキャットコピーにもなっている問い。

作品中でまさに問いが投げかけられるシーンがある。

次男のレリアンが森での生活に疑問を持ち、「普通がよかった。」とベンに反抗するところ。

ベンはレリアンに問う。

「普通とは何か説明してみろ。納得させられたら考えを変える。」と。

確かに説明するのは難しい。日頃、当たり前のように口にしている「普通」は実体を持たない曖昧な言葉。個人によっても国によっても時代によってもそれぞれ異なる「普通」がある。

だからと言って「何をしてもいい」というわけではないのですが、必要以上に「普通」に拘りすぎて自分や他人を苦しめてしまうのなら、少しそこから離れてみよう。

離れて見える景色は自分の拘りが取るに足らないことであることを教えてくれるかもしれない。一家の生き方はそう思わせてくれる。

とはいえ、この一家が「普通」ではないことは確かであり、それはやはり波紋を呼ぶ。

▼ハデハデ衣装でレスリーにお葬式に参加するキャッシュ一家(なぜかガスマスク(笑))

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夫婦で話し合って決めた教育方針とはいえ、子供たちはずっと森の中で暮らすわけにはいかない。森を出た子供たちはどうなるのだろう?

亡くなったレスリーはその先のことを考えていたのかもしれない。だからボウの大学受験を内緒で手伝っていたのかもしれない。大学に行く必要もないほどにボウはベンとレスリーから十分な教育を受けていても、森の外でしか学べないこともあるのだ。家族以外を関わりと持たない森での生活が健全だとは言えない。

何も語らないまま亡くなってしまったので、彼女が何を考えていたのかわからないけれど。ベンの夢の中でしか登場しないレスリー、かつて弁護士であったという聡明で(おそらく)風変わりな女性がどんな母親であったのか、どんな娘であったのか、どんな妻であったのか観てみたかった気がした。

お葬式は亡くなった本人の望む形で、というのはわかる。私もそうしてあげたいし、そうしてほしい。でも一方でお葬式は送り出す側にとっても大事な儀式なので、娘を失って悲しみに暮れる両親の側に気持ちを寄せると居たたまれない気持ちにもなる。

互いの「普通」を押し付け合えば争いが生まれる。

どこかで歩み寄ってすり合わせをしなければ、無用な衝突を生んでしまいかねない。それは親子においても言えることで、親が子供のために思ってすることが常に子供のためになるとは限らない。

ベンが自然の中で子供たちを育ててきたことは、その一面で子供たちから「社会」で生きる能力を損なわせるものでもあったようにも思った。仏教徒の娘をキリスト教式で弔おうとしたレスリーの父と、ベンがやっていることはそれほど変わらないのではないか、と。

終盤は胸が切られるような展開が続いたが、森の中に家族だけで籠るような生活から、少し外の生活に歩み寄った暮らしに落ち着いた家族の朝の様子が描き出される。

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少しほっとした。

ベンの考え方はやはりあまりに偏っているように思えたので。

森の外の暮らしと森での暮らし。一家は双方の長所をほどよく取り入れたよい場所を見つけたようだ。

すごいな、と思ったのはベンが自分の今までの教育の誤りをきちんと認められる人であること。そしてそれが子供たちのためだと思えば、身を引き裂かれるような思いをしても子供たちを手放し、ジャックに託す決断ができること。(かつてベンが口にした「納得させられたら考えを変える。」という言葉はまさに真実でした。)

そしてそんなベンだからこそ、子供たちは全員、反発していたボウやレリアンも父親の元に戻ったのだね。

「普通」にとらわれ過ぎるのも良くないが、独りよがりになりすぎてもいけない。完璧なものなどどこにもないがもしも間違いに気づいたら、その時点から修正すればいい。

朝の光の中で穏やかに朝食を取り、学校にも通い始めた一家の様子を見ているとそんなことを考えました。

「今日は人生の最後の日と思って生きる。」

キャッシュ家の家訓。

そうですね。何気ない一日であるように思えても、毎日を後悔のないように精一杯生きることが大事です。

以上、「はじまりへの旅」の感想でした。

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【おすすめロードムービー】私の好きなロードムービー15選+これからチェックしたい作品 

その他気になったこと。

ナミビアに旅立っていくボウとの最後の会話。

「死ぬな。」

「死なない。」

っていうやりとりも好きでした。

生きてさえいれば、たとえ失敗したとしてもやり直せるし、未来を変えていける。

ベンが言外にそう言っているように思えたのでした。

ちなみのボウのフルネームはボゥドヴァン。世界で一つしかない名前。キラキラネームみたいなものかな(笑)

 スポック博士

ボウと女の子ととの会話で出たスポック博士。ボウは本当のことが言えなくてつい嘘をついてしまうあのシーンです。

女の子が頭に思い浮かべたのは『スタートレック』の耳の人、スポック博士。

一方のボウが思い浮かべたのは、アメリカの著名な小児科医師で『スポック博士の育児書』という世界中で5000万部も売れた大ベストセラーを出版したスポック博士でした。

キャッシュ一家が一般社会とずれていることをわかりやすく伝えるエピソードでした。

ちなみに、ボウの好きな音楽はこちら。私も好き。

▼バッハ ゴールドベルク変奏曲(グレン・グールド版)

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